— お金と手間と時間の三つ巴をほどいて 本当に得な選択を考える —
薪ストーブのある暮らしは 豊かさと引き換えに見えにくいコストを抱えています
とくに議論が分かれるのが 自給か購入かの二択です
目の前の支出だけを見れば購入薪は割高に映り 自給は無料に思えることもありますが
 実際には時間や装備の減価や体力リスクまで含めて考える必要があります
この記事では 数字と生活感の両面から コストを見える化して判断の助けにします
まず購入薪の相場感から整理します
地域差はありますが 関東甲信や東北南部で広葉樹の乾燥薪は1立米あたり2万から4万円が一般的です
含水率20パーセント前後の乾燥済みで配達込みなら高めに寄り 未乾燥や引き取りなら安くなります
シーズンに必要な量を1.5立米と仮定すると 年間の現金支出は3万から6万円のレンジに収まる計算です
この対価には 伐採 破砕 乾燥 保管 輸送の手間が既に含まれており 消費者側の作業は搬入と積み替え程度で済みます
次に自給の内訳を見ていきます
自分の山や許可を得た里山から原木を入手し 玉切り 斧または薪割り機での割り 積み上げ 乾燥 保管を自分で担います
表面上の現金支出は小さくても 実は固定費と変動費が確実に存在します
装備の固定費は見落とされがちです
チェンソー本体は入門機で3万から6万円 安定機で7万から12万円
防護具はチャップス ヘルメット ゴーグル 耳栓 グローブ 安全靴で合計2万から5万円
くさび 斧 薪割り機を導入するなら手動で1万から3万円 エンジンや電動の油圧式で8万から20万円超も選択肢に入ります
これらは3から7年程度で更新や修理が発生すると見込み 減価償却という形で年あたりに按分して考えるのが現実的です
変動費も積み上げます
混合燃料やバーオイルで年5千から1万 目立てやソーチェーン交換で年3千から8千 薪棚や屋根材の維持で年5千から1万円
車で原木を運ぶなら燃料代と車両の負担増も無視できません 片道30kmを月2回走ると 年間で燃料1万から2万円
さらに見えないコストとして 自分の時間があります
時間の価値はコスト見える化の核心です
伐る 割る 積む 運ぶ 乾かす これらを合計すると 1立米あたり8から15時間程度が目安になります 技量や装備で差が出ます
自分の時給を仮に1500円と置けば 時間コストは1立米あたり1万2千から2万2千円に相当します
2立米なら2万4千から4万4千円 ここに燃料や消耗品を足すと 購入薪に近づくことが見えてきます
健康リスクと安全コストも忘れられません
小さなケガでも通院や休業につながれば 直接費用と機会損失が発生します
防護具を揃え 安全な作業計画を立て 単独作業を避けることは コスト削減でもあります
ここまでをざっくり式にします
自給の総コストは 固定費の年按分 足元の変動費 そして時間コストの和です
たとえば 年2立米を自給するとして 装備の年按分2万円 変動費1万5千円 時間40時間を時給1500円で計算すると 合計は2万円プラス1万5千円プラス6万円で9万5千円となります
1立米あたりでは約4万7千5百円 これは相場の上限帯に接近します
一方で装備の初期投資が済み 技量が上がり 1立米あたりの時間が8時間に短縮できれば 時間コストは1万2千円に低下します
同じ計算で2立米なら 合計は装備2万円 変動費1万5千円 時間2万4千円で5万9千円 1立米あたり約2万9千5百円 購入薪と拮抗します
購入薪の隠れたコストも存在します
配達日の在宅調整や積み替えの時間 置き場所の確保や雨対策 そして品質のばらつきリスクです
未乾燥混入や長すぎる薪は 乾燥遅延やカット追加という手間を生みます
信頼できる販売者を見つけるまでの試行錯誤も コストの一部と考えると腹落ちします
結論に近づけるための判断フレームを用意します
一年目は購入をベースに一部自給でテスト 二年目に配分を最適化 三年目に固定化という三段階が現実的です
初年度は装備を最低限に抑え 1立米だけ自給して所要時間と体力負荷を記録します
次年度に時給の仮置きを見直し 装備の追加投資をするかを決めます ここで自給比率を5割 7割と段階的に上げるか 購入特化に戻すかが定まります
都市近郊と山間部では最適解が変わります
都市部は原木確保や騒音制約 運搬距離がネックになり 購入比率が高いほど合理的になりがちです
山間部や自宅林がある人は 原木アクセスが良く 時間コストが下がりやすいので 自給のメリットが大きくなります
お金以外の価値も重要です
身体を動かす充足感 家族や仲間と作る思い出 災害時の備えとしてのレジリエンス これらは帳簿には載りませんが 選択の決定要素になり得ます
逆に 花粉シーズンの作業負荷や猛暑の危険性 近隣への騒音配慮は マイナスの無形コストとして意識しておくと判断の精度が上がります
最終結論はこう整理できます
自給は 装備が整い 原木アクセスが良く 作業を楽しめ 時間コストを低く抑えられる人にとって強く得になり得ます
購入は 都市部で時間が貴重な人や 安定品質と確実な乾燥を重視する人にとって合理的な選択です
どちらが得かは あなたの時給の仮置き 原木アクセス 装備の減価 そして安全マージンの置き方で数値が動きます
最後に実践用のチェックリストを置いておきます
・一年に使う立米量はいくつか
・自分の時給にいくらを置くか
・原木の入手経路と距離はどうか
・装備の初期投資と寿命はどれくらいか
・安全対策にかけるコストと体制は十分か
・この五つに答えられたとき あなたにとっての最適解が自然と立ち上がります

